第9回 前立腺癌と針生検

今回は、現在トピックな疾患である前立腺癌についてお話してみたいと思います。現在、前立腺癌の新患者の発生率は人口10万人当たり約20人弱といわれています。ですから、私どものクリニックがある堺市(人口80万人)では、男女比が1:1として毎年、80人近くの方が新たに前立腺癌と診断されていることになります。前立腺癌は他の癌と比べて進行がゆっくりしていますが、発見時リンパ節や骨に転移をしていることもあり、また他の癌同様増殖の速いタイプもありますので早く見つけるに越したことはありません。そこで強力な診断の助けになるのがPSA(前立腺特異抗原)といわれる癌マーカーです。
一般に4ng/ml以下は正常とされていて4ng/ml以上であれば癌の疑いがあるとされます。それでは、PSA 4ng/ml以上の方はどう診断を進めていくのでしょうか?

我々は、まず3ヵ月後にPSAの再検査を行います。PSAは、血中では大きく分けて2種類の形で存在します。ひとつは、フリーPSAと呼ばれ、PSA単独で存在します。また、アルブミンやアンチキモトリプシンと呼ばれる蛋白と結合して存在するPSAもあり、癌の際は、フリーPSAが少なくなるとされています。そこで、3ヵ月後に再検査する際、このフリーPSAも測定し、より癌が疑われるか否か調べることになります。再検査でもPSAが高い場合、MRIという画像検査を行うことになります。これで前立腺内部を詳しく画像化し、癌と考えられる部分があるかどうか調べることになります。これらの検査を行っても癌の疑いがはれない場合、いよいよ前立腺針生検という検査をお勧めすることになります。通常、この検査は2泊3日、あるいは1泊2日で行う施設が多いようですが、私どもでは、利便性を考えて日帰り生検を行っています。方法は、お尻にある仙骨裂孔といわれる場所から麻酔をかけ(仙骨麻酔)、局所の痛みを十分にとってから直腸に超音波検査の装置を挿入し、そのガイド下に、会陰から針を挿入し安全に前立腺の組織を採取するというものです。時間は麻酔をかけて検査終了まで小一時間くらいでしょうか。その後、約2時間ほど休憩していただき体調の変化のないことを確認の上、帰宅していただきます。麻酔をかけたということから安全上、検査当日は車での来院はできません。できれば家族の方に迎えに来ていただいたほうが安心です。

我々が、経会陰式の生検を行っているのは、経直腸式の生検(直腸から針を挿入して前立腺の組織を採取する方法)では、数%(つまり100人に数人)急性前立腺炎などの合併症を引き起こし 、緊急入院が必要になることがあるからです。我々の経会陰式であれば、ほぼ清潔に施行でき、急性前立腺炎を引き起こした例は皆無です。1週間後に来院していただき、病理検査の結果をご説明することになります。

以上検査の流れをご説明しましたが、前立腺癌は治療方法も増え現在、手術、放射線療法、ホルモン療法、超音波療法(保険適応外です)などいろいろな方法が選択することができます。早く、癌を見つけることができれば、治療の選択肢も広がりますが、発見が遅れれば、治療の選択肢が狭まるのみならず、命をも脅かす恐ろしい病気です。年に1回のPSAのチェックとその後の必要な検査を正しく受けていただくことを切に願ってやみません。