第10回 勃起不全(ED)について

男性にとって勃起というものは、日常生活では必要な時間というのは限られているのですが、無いと困るという実に奇妙な機能です。自分が男性であることを認識するために重要であると同時に、パートナーとのよき関係を維持するため、また次の時代へ自分の遺伝子を伝えていくためには必要な現象でもあります。我々のクリニックには 19 歳から 78 歳までの方が ED を訴えて受診され、非常に幅広い年齢層の方が ED で悩んでおられることを再認識させられます。原因は、高齢者の方は糖尿病、高血圧、高脂血症など生活習慣病を長い間罹患されていて、勃起能に障害が起きている方が多いですし、若年者の方では、過緊張や過去の失敗からくる自信喪失のためうまく勃起できない、勃起が持続しないという方や仕事のストレスなどが原因という心因性のものが多いようです。

いずれの場合も、治療の第一選択はバイアグラ、レビトラのような PDE-5 阻害剤といわれる内服薬です。

通常の勃起では、性的興奮により海綿体の細胞で L- アルギニンというアミノ酸から NO( 一酸化窒素 ) がつくられ、これが可溶性グアニル酸シクラーゼと呼ばれる酵素を活性化させサイクリック GMP を産生します。このサイクリック GMP が海綿体の平滑筋を弛緩させ勃起を促すのですが、サイクリック GMP は PDE- 5という酵素によって分解されます。つまりサイクリック GMP をたくさん作って勃起を助けてやるためには PDE- 5を阻害(妨げる)してやればよいわけです。こうしてバイアグラやレビトラが生まれたのです。重度の糖尿病、骨盤の手術の既往、脊髄の障害がない場合、その有効性は 90 %を超え非常に有効な薬であることがわかります。残念ながら、性的な興奮が、神経により伝わらないとこの経路はうまく働きません。骨盤の手術(膀胱癌、前立腺癌、直腸癌の手術など)を受けられた方、重度の糖尿病があり神経障害のある方、脊髄損傷がある方はこの性的興奮が勃起神経を通して陰茎海綿体に伝わりませんので有効率がかなり悪くなるわけです。

しかし、陰茎海綿体そのもののダメージがなければ陰茎海綿体注射という方法があります。プロスタグランディン E1 という薬を陰茎海綿体に注射することで、海綿体の平滑筋や流入動脈の弛緩が起こり勃起へと導かれていきます。バイアグラ、レビトラの無効な方に行うことが多いので有効性は 70-80 %といわれていますが、実際はバイアグラなどと変わらないと考えられています。ただ、陰茎に注射をするので注射が嫌いな方は不向きかもしれません。

健康保険を効かせての治療となると漢方薬を中心とした内服薬となります。バイアグラなどと比較すると有効性は比べるべくもありませんが、副作用も少なく勃起能だけではなく体全体の調子がよくなったと喜ばれることもあります。

当クリニックでは、個人個人の求めるゴール、希望の手段をよくお聞きし、勃起ができた、できなかったという結果だけではなく、あそこで相談してよかった、何か肩の荷が下りたといわれることができる、オーダーメイドな治療を目標としております。