第18回 膀胱癌について

今回から少し泌尿器科の癌についてコラムを書いていこうと思います。病院勤務医をしている頃は、ご近所の内科や外科の先生から血尿を訴える患者さんの診断を依頼され膀胱癌を見つけることが多かったですが、実は紹介される段階で優秀な先生方はほぼ診断をつけてきて下さることが多く、それを膀胱鏡検査で確認するという作業がほとんどであまり悩むことはありませんでした。開業して第一線で血尿を訴える患者さんの診察をすると血尿を呈する方の中には、膀胱癌は勿論、前立腺炎、腎出血、膀胱炎などでも血尿を呈する方がおられ、本当の意味で鑑別診断をしっかりせねばならないことが多く、また大病院ではどんな検査をしても許されるということがありますが、我々は侵襲の少ない検査を有効に短い時間で行い、かつ正確な診断を要求されるので、非常に緊張して診察せねばなりません。

さて膀胱癌とはどのような病気でしょう?膀胱は、丸いボールのような形をしていて中に尿を溜める働きをしています。そしてその壁は 4 層構造していて、おしっこに近い内側から
1. 移行上皮という粘膜、 2. その下の粘膜を支えている粘膜下層、 3. 膀胱の収縮に関与する筋層、 4. そして一番外側が脂肪層となります。癌は、一番内側の移行上皮にでき移行上皮癌と呼ばれ、膀胱内腔に成長しますが、同時に根っこを粘膜下層のほうへ張っていきます。手術をする際にはこの内腔に突出する癌を内視鏡で切り取ると同時に根っこも削り取らねばなりません。きちんとすべて削り取ることができれば治療は完了です。しかし、喜んでばかりはおられません。ここで問題になるのは、がん細胞の顔つきと根っこの深さです。根っこの深さについては、粘膜下層までで済んでいれば膀胱を温存できますが筋層まで浸潤している場合、浸潤癌と呼ばれ膀胱すべてを取らねばなりません。(膀胱がなくなりますので、当然膀胱の代わりになるものが必要になります。これについては次回コラムに書こうと思います。)

また、癌細胞の顔つきも問題になります。移行上皮癌の細胞の顔つきはグレード 1 、 2 、 3 と 3 段階あり数字が大きくなれば顔つき ( 悪性度 ) が悪くなります。膀胱癌は非常に再発しやすい癌で移行上皮があるところどこでも場所を変えて出てきます。そのため 3 ヶ月に 1 回膀胱鏡を行い、膀胱内に再発がないか確認するわけですが、この悪性度が高ければ再発する可能性が高くなります。一般的にはグレード 1 で 40 %、グレード 2 で 60 %、グレード 3 で 80 %といわれています。再発を繰り返すため 10 回以上手術をしている方もおられますし、再発を重ねて浸潤癌へ姿を変え膀胱を取らねばならないこともあります。

手術は、まずは内視鏡的に行われます。腰椎麻酔または全身麻酔下に尿道から内視鏡を膀胱内に挿入し、同時に挿入している電気メスを使って腫瘍を切除します。それに先立ち、正常に見える膀胱粘膜にも癌がないか調べるため何箇所か生検と言って生検鉗子と呼ばれる特殊な機械を使って組織を少しかじり取ります。そして十分に止血をして手術は終了です。病理検査の結果が癌の根っこが筋層まで行っている様なら後日改めて開腹手術で膀胱を取る手術を行います。

手術の前に行う画像検査で明らかに根っこが筋層深くまでいってきるときは手術前に、取った膀胱を詳しく調べて根っこが深くいっているときには手術の後に抗癌剤を使った化学療法を行って治療することがあります。これを手術前に行うことは腫瘍の根っこや大きさを縮小させてから手術をするというメリットがあり、実際する場合としない場合では数%ですが予後に違いがあります。また、手術後にする場合は、画像上見えない全身に散らばっているかもしれない癌細胞を小さいうちにやっつけるというメリットがあります。

当然早く癌を見つけることができれば、膀胱を温存しまた確実に治療をすることができます。膀胱癌の症状は、無症候性血尿といい、血が尿にまじること以外症状が乏しいことがほとんどです。血尿を健康診断で指摘されたり、ご自分で尿を見てあれ、と思われたときには迷わず泌尿器科を受診してください。痛い検査をされるのでは?という不安はよくわかりますが、最近の医療機器は非常によくなって痛みの少ない検査ができるようになりました。安心して受診してください。