第19回 尿路変更について

前回の膀胱癌の治療の続きです。表在性の癌(この場合、内視鏡的手術を行い膀胱は残すことができます。)ではなく、不幸にして浸潤癌(腫瘍の根っこが筋層まで浸潤している癌)になってしまった方は膀胱全摘という手術が選択されます。これは、膀胱と周囲のリンパ節、尿道をすべて切除する手術で泌尿器科が行う最も大きな手術のひとつです。尿道を残すか取るかはケースバイケースですが、標準術式は尿道も一緒にとってしまうことです。後で述べる回腸新膀胱という尿路変更のときだけ尿道は温存されます。

膀胱を取ってしまったとき膀胱につながる尿管の扱いが尿路変更を決めます。一番簡単な尿路変更術は、膀胱と切り離された尿管をそのままお腹の皮膚に植えつける方法で
1)尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)といいます。

勿論尿管からは絶えず尿が出てきますので、これを集める集尿具 ( パウチ ) が必要で皮膚に袋を貼り付けて尿を溜めるということになります。また、尿管は細い管なのでこのまま皮膚に植えつけた場合うまく尿が出てこないで腎臓が腫れることが多く、尿管の中に尿管カテーテルという細く硬い管を留置し 1 ヶ月に一回交換することが必要になる場合があります。メリットは体への侵襲が少なく、手術時間も短くなるということです。

尿管をお腹の中を通して皮膚に出してくるためには十分な長さの尿管が必要ですし、尿管カテーテルなどの異物を留置しなければならないことも多くなります。そこでしっかりとしたチューブである腸、特に回腸を使った尿路変更が主流となってきました。世界中を見ても一番多く施行され安全性と機能の評価が高いのが
2)回腸導管(かいちょうどうかん)です。

小腸の最後の部分である回腸を約 15-20cm セグメントとして取り、片方を閉じて(正確には口側を閉じて)もう片方を皮膚に植えつけます。そして尿管を閉じた腸の底のほうに植えつける方法です。これですと、尿管はほとんど自然な走行で回腸セグメントに吻合できますし、あまり長さのことを気にする必要はありません。ただ腸を使った手術になりますので、回腸を取った後、回腸―回腸吻合の漏れがあると命取りになること、侵襲は尿管皮膚瘻より大きくなり、以前腸の手術をしていて腸の癒着が激しかったりするとこの手術はできません。また、この方法も回腸を通して尿が絶え間なく出てきますので集尿具の装着が必要です。

そこで、集尿具を使わなくても今までどおりに近い姿で排尿できる方法として
3)回腸新膀胱(かいちょうしんぼうこう)という方法ができました。

これは、 70-80cm の回腸をセグメントとして取り、一旦腸を切り開いて板状にして、もう一度袋状に縫い合わせて新しい膀胱を作る方法です。作った新膀胱をもと膀胱があった場所に置き、尿道と吻合、両方の尿管を新膀胱に吻合するといったかなり込み入った方法です。これですと集尿具を体に貼るなどというわずらわしいことは不要ですし、腹圧排尿にはなりますが、自然な感じで排尿ができます。しかし、この方法を取るためには尿道を残すことができる膀胱癌が対象で、すべての膀胱癌の方にできる方法ではありません。術後自己導尿をせねばならない、夜中に一回起きて排尿していただくなど管理が難しい尿路変更ですので、それを学ぶことができる比較的若い方に対して行うことが多いです。その他、大腸を使った結腸導管やどうしても尿道は残せないが集尿具も体に装着するのは嫌だという方のために回腸と上行結腸を使ったインディアナパウチといった特殊な方法もありますが、かなり限定された方に行う方法になります。

医学は、日に日に進歩していきます。尿路変更も以前と比べ格段に選択肢が増えました。また、最近のニュースを見ていると人工膀胱なる臓器再生の話題も出てきているようです。不幸にして膀胱を取らねばならないということになっても、今まで通りの生活ができる日も近い将来来るかもしれません。