第21回 尿失禁について2

今回は、前回に続いて尿失禁の話です。前回お話したように、失禁のタイプには大きく分けて2種類あり、前回の腹圧性尿失禁と今回お話しする切迫性尿失禁です。

切迫性という言葉はピーンと来ないかもしれません。医学用語は難しいのが難点ですが、要は強い尿意と思っていただければよいかと思います。水の音を聞いただけで、水を触っただけでおしっこに行きたくなるということは、患者さんにお聞きすると結構あるようです。患者さんはそれが自分だけに起こっていると思い込んでおられ、私がそんな方はたくさん居られますよとお話しするとびっくりされることが良くあります。

解説すると人は高等動物なので、記憶や行動パターンというものが大脳にインプットされています。おしっこに悩んでいる方は、水や液体状の流れるものを見たり聞いたりするとおしっこという情報と直結してしまうようです。つまり、おしっこのことで悩んでなければそのような回路はできず、水は水、おしっこはおしっこと別々の情報として存在するのですが、悩みのある方の場合、変な回路ができてしまうというわけです。

通常このような患者さんの場合、どのようなことが膀胱で起きているのでしょう?普通の状態では、尿がたまりだすと膀胱は徐々に膨らんでいきます。若く柔らかい膀胱であればどんどん溜まりますので300-400mlは十分に溜まるでしょう。お年を取って硬くなった膀胱でも通常は200-300ml溜めることができるはずです。いっぱいになるとパンパンになり膀胱の内圧が上昇し、ここで知覚神経が刺激され脳に刺激が伝わります。そこで脳からおしっこに行きなさいという命令が伝わりトイレに行って排尿するということになります。

切迫感のある方、切迫性尿失禁になる方の場合、膀胱の壁が不安定で、少し尿が溜まっただけで膀胱が自分の意思とは関係なく収縮を始めてしまい、膀胱内圧が上昇し、刺激を脳に伝えてしまいます。そのためまず頻尿という状態が起ることが多いです。また、その収縮がひどくなると内圧はどんどん高くなって切迫感といわれる強い尿意となります。その内圧が括約筋の尿を止めようとする圧力を超えると失禁という状態になります。特に、前立腺肥大症の男性や脳梗塞をされた後の方に多く見られます。冷えや疲れをきっかけに起るものや原因不明のものも有ります。

治療は、この膀胱壁の不随意の収縮を止めてしまうことから始めます。抗コリン剤といわれる薬が非常に有効で色々な薬が内服可能です。副作用は、唾液腺に同じ作用部位があり、ここを止めてしまうために口渇が起る方や、膀胱の筋肉と同じ平滑筋をもつ腸の動きを止めてしまうため便秘になってしまう方が居られます。また、緑内障を患っておられる方は、眼圧が上昇して悪化することもあります。しかし現在は、副作用を抑えた新薬も開発され使いやすくなりました。

前回の腹圧性尿失禁と同様、おしものことなのでとか歳のせいだからとか泌尿器科を受診することをためらっている方は、決して自分だけの病気ではなく有効な治療法があることを是非知っていただきたいと思います。