第29回 過活動膀胱

新年明けましておめでとうございます。
最近、めっきり寒くなってきました。寒くなるにつれ、頻尿、切迫感、切迫性尿失禁などを訴えて来院される方が増えてきました。このコラムでも以前取り上げたことがある過活動膀胱です。

この病気は、膀胱の排尿筋が自分の意思とは関係なく収縮することで膀胱の内圧が急に高くなり、耐え難い強い尿意が出現するという状態で、脳梗塞や脊髄の病気など原因が明らかなこともありますが、原因不明のことも多く、寒くなるとこの症状を訴える方が増える傾向にあります。病気の仕組みを考えていくと神経伝達物質や神経回路の再構築など学問的には興味深い点が色々あり、個人的には面白い(患者さんには失礼ですが)病気だなと思っています。

治療は、ガイドラインにも書かれてあるように抗コリン剤といわれるお薬を内服していただきます。2週間で約6割、4週間で約8割の方に効果があり、診断が正しい限り、まずよくなります。お薬をずっと続けなければ症状が再発する方もおられますが、明らかな病因がない方の場合、私は約3ヶ月の投薬の後、徐々に減薬していきます。この方法でまず8割以上の方が薬から卒業できます。勿論、翌年寒くなってまた症状が出る方もおられますので、自分では花粉症みたいなものかなと考えています。ただ、あるタイプの緑内障のある方はこの薬が飲めませんので注意が必要で、患者さんが緑内障といわれたことがありますという方は、まず眼科で診察していただき処方可能かどうか確かめる必要がありますし、口渇、便秘といった副作用が出やすいのでこれらのことにも気をつけながら症状を見る必要があります。また、消化管の動きを抑える副作用もありますので、胃部不快感や食後の胃もたれなどを訴える方も時々おられます。口渇以外は対処する薬がありますので併用しながら薬を続けてもらいますが、口渇のため薬を中断しなければならない方が少なくありません。現在、これらの副作用を低減する、あるいはなくす薬の開発が進んでおり、将来胃薬などのように気楽に飲める薬が出てくるかもしれません。

最近、テレビを見ていると色々なメーカーが気軽に飲めるとかお困りの方はまず試してくださいとかいう頻尿や尿失禁の薬のコマーシャルをよく見かけます。これを見て思うことは、コマーシャルになるくらいなのでやはり困っている方は多いのだなということと、薬メーカーの商魂たくましさという少し嫌なものです。我々は、これらの薬の中身はよく知っていますが、泌尿器科医として第一選択としてお勧めするものではありませんし、どうも2週間くらいを目安にということになっているらしいですが、それで約8000円-1万円かかるようになっています。この過活動膀胱という病気は、偽薬を内服しても60%の人はよくなったと感じる病気ですから、薬の効果がなくても良くなったように感じてしまうわけで、しかし本当に過活動膀胱ならすぐ悪くなりますからかなりのお金を使わねばならなくなり、泌尿器科にかかった方がよほど安価に正確な治療ができるということになります。こういう会社は、困った人の弱みにつけこんだ商売をしていると穿った考えをしてしまうのは、私だけでしょうか?

今現在、過活動膀胱で困っている方は、約840万人といわれ、今後高齢化社会が進んでいくとますますその数は増えるといわれています。命にかかわる病気ではありませんが、買い物に行くのもためらわれる、旅行に行きたいがバスはトイレがないのでと言う方がおられるのであれば、生活の質を高めるためにもきちんとした診断、治療を受けられるのがよいのではないでしょうか。