第45回 急性膀胱炎

桜の花が散って若葉が芽吹く季節となったと思うと竜巻が起こったり、ひょうが降ったりと天変地異を思わせる気候が続いています。ずっと途切れていたコラムも周りからせっつかれてようやく重い腰を上げた次第です。
 さて今回のテーマは膀胱炎です。女性なら一度は経験があるかもしれません。おしっこをすると排尿の最後にキューっと痛くなったり(排尿時痛)、尿が残っている感じがあったり(残尿感)、すぐにおしっこに行きたくなったりする(頻尿)、困った病気です。もちろん男性にもおこる病気ですが、男性は、解剖学的に尿道が長く膀胱炎にはかかりにくい仕組みになっています。それでも膀胱炎を起こす方は、出口にある前立腺が大きくなっておしっこが出にくくなっている、あるいは膀胱の機能が低下しておしっこを排出しにくくなっていておしっこが膀胱内に残る、など何か原因があって膀胱炎になることが多いです。一方、女性は尿道が短く、また肛門との距離が短く、原因菌が外陰部で住みやすい環境ができており、そこに生理や尿失禁など外陰部が湿潤する原因があるとさらに膀胱炎をおこしやすくなります。
 膀胱炎の治療は、抗生剤を内服することでほとんどの方はよくなります。昔はどんな抗生剤でもよく効き、3-4日内服していただくとまず治癒しましたが、最近は抗生剤の乱用により耐性菌が増加し、20人に1-2人の方が抗生剤を変更せねばならなくなりました。よくある間違った抗生剤の飲み方は、風邪などで抗生剤を内科の先生からもらい良くなったので薬を飲まないで余らせておく、膀胱炎になった時にその抗生剤をちょこっと飲む、一旦は症状が良くなるのですが、抗生剤の量が足りないためにまた症状が出てくる、あわてて泌尿器科に受診するというパターンです。細菌は、低用量の抗生剤を投与されると次第にその抗生剤に対し抵抗性を生じてきます。いわゆる耐性菌の出現です。その抗生剤だけに抵抗になるだけならまだ良いのですが、そうではなく一緒の効き方をする複数の抗生剤に対し耐性を獲得します。ですから膀胱炎になった場合、完全に原因菌をやっつけなければなりません。医師の指示通り内服しましょうと言われるのはそのためなのです。中には私は普段薬なんか飲んでないから安心だわ、と思われる方もいるかもしれません。基本的にはその通りなのですが、安心はできません。あなたの周りの誰かが抗生剤を乱用していると、その方にできた耐性菌があなたの周辺のコミュニティーに広がるからです。Aさんに付いた耐性菌が家に招かれたBさんの体に付着し、回覧板を持って行ったCさんのお宅に広がる、インフルエンザやはしかなどの伝染する病気と一緒です。膀胱炎にならない限り悪さをしませんが、ひとたび感染すると治療に難渋します。
 それでは予防はどうするのでしょう?排尿とは、体の老廃物や余った水分を外に出す手段ですが、それと同時に膀胱内を洗浄して中に侵入した細菌を追い出す働きもあります。女性は尿道が短いので少なからず膀胱内に細菌は侵入してきます。トイレに行くのが嫌だからという理由で水分摂取を極力減らしたり、おしっこを我慢したりするのは細菌を膀胱内に滞留させる原因になります。また、冷え、疲れなども体の免疫力を低下させ感染を成立させてしまいます。暖かくする、規則正しい生活をするというのはそのためなのです。また、若い女性の場合、性行為の後で膀胱炎になる方がよくおられます。性行為の前後にはシャワーを浴び清潔を保つ、(これはパートナーも同じです。) 性行為後に必ず排尿するということが重要です。それでも膀胱炎になりやすい方は、どうするか?膀胱炎の予防として効果のある漢方薬を内服して頂いたり、最近注目されているクランベリージュースを飲んで頂いたりすることで予防できることがあります。