第46回 前立腺肥大症

暑かった夏も終わり、朝夕が冷え込む季節になりました。皆さん風邪などひかれていないでしょうか。今回は、泌尿器科の"基本のき"に戻って前立腺肥大症を一度取り上げてみることにしました。 前立腺は、男性にだけ存在する臓器で膀胱の直下に位置しています。精液を作ることを役割としていますが、若いころは栗の実あるいはクルミの実くらいの大きさで尿道を取り巻いています。年を取ると誰でもこの前立腺が大きくなりさまざまな症状が出てきます。これは、頭の髪が白くなるのと同じ加齢現象ですが、大きくなるスピードや程度が人それぞれで違うので症状が強く出たり、出なかったりします。前立腺は40歳代後半から大きくなり始めますが、大きくなる理由は、実はまだはっきりとはわかっていません。加齢により体内の男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れることが原因であると説明されたり、大きくなるような成長因子が分泌されることが原因だと説明されたり、前立腺の腺組織(精液を作る部分)と間質(それ以外の部分)とが協調してお互いを大きくしていると説明されたりしていますが、恐らくこれらすべてのことが複雑に絡み合って大きくなっているのだろうと考えられています。前立腺が大きくなると、中を通っている尿道が圧迫されたり、引き伸ばされたりすること、下から膀胱の底部を押し上げることなどからおしっこの勢いがなくなったり、おしっこの間隔が短くなったり、おしっこを我慢するのが難しくなったります。また、おしっこを出したのにまだ残っているような気持ち悪さを感じたり、おちんちんを下着にしまった後にじわーっと尿が下着に染み出てくるというような排尿後の症状が出る方もおられます。
 治療は、薬物療法に関しては年々進化しています。今から30年前は、漢方薬や生薬などが中心でしたが、アルファブロッカーと呼ばれる尿道をリラックスさせてくれる薬が出て治療が一変しました。今まで漢方薬で効果のない方は手術を受けてもらうしか仕方がなかったのですが、この薬により症状が取れてしまう方が多くなりました。また、ここ数年でアルファブロッカーの種類も豊富になり、より使いやすくなりました。また、頻尿や切迫感といった辛い症状に特化した薬も次々に発売されるようになりました。最近では、前立腺そのものを小さくしてしまう効果の高い薬も出てきて、いろいろな薬の組み合わせで症状を取ることができ、患者さんのQOL(生活の質)は年々向上してきています。
 また、当クリニックでは、新しい薬の誕生にも一役買っており、より効果の高い、安全な新薬の試験(治験)を積極的に行っています。現在は、前立腺肥大症や夜間頻尿に悩んでおられる方のための薬の治験を行っています。これは、患者さんにご協力いただかねばならないことですが、患者さんには現行の治療では満足できない場合、世の中に先駆けて新しい薬を試していただけるメリットがあります。また、治験を依頼する製薬会社には、より効果の高く、安全な薬を同じ症状で困っておられる患者さんに早く使ってもらえるよう製品にできるというメリットがあります。我々はこの橋渡しになりたいと思っています。