第48回 過活動膀胱

気が付けば、今年も残すところ1か月となりました。今年は、異常気象が続いた年で、大雨、台風、竜巻と大きな災害に驚くとともに自然と共存していく難しさを教えられた1年でもありました。

秋も深まり、気温が下がってくると泌尿器科で増えてくるのが、これまでも何回か取り上げた過活動膀胱という病気です。最近は研究も進み、病気のメカニズムも明らかになってきました。今までは、膀胱の収縮する筋肉が自分の意思でコントロールできずに収縮してしまい、膀胱の内圧が急に上がることで突然、強い尿意を感じると考えられていましたが、それだけではなく膀胱の知覚神経が敏感になるため少量の尿が溜まっただけでも尿意を感じてしまうという経路もあることがわかってきました。これまでは、筋肉の収縮の方ばかりを見ていて、そこに対する薬が開発されていましたが、今後はこの知覚神経に注目した新薬が開発されるかも知れません。

寒くなるとこの症状を訴える患者さんが多くなるというのも興味深い現象で、膀胱は体の中にあるので気温の影響は受けないはずです。しかし皮膚表面の体感温度が下がってくると尿意を感じることがあることは普段皆さんも感じるところだろうと思います。また、使い捨てカイロなどを下腹部や腰回りに張ると頻尿がましになる患者さんも多くいらっしゃいます。こういう現象を垣間見ると人間の体は本当に不思議だなといつも感じます。 さて、以前に書きましたように過活動膀胱に対してガイドラインでは抗コリン剤と言われる薬が第一選択薬として投薬されるように勧められています。しかし、有効性は高いもののある種の緑内障を持つ患者さんには使えません。また、唾液腺に作用し唾液の分泌を抑えたり、腸に作用しその動きを抑えたりするため口渇や便秘が多く、悩みの種でした。この副作用のために抗コリン剤が内服できなかったり、副作用のための薬を飲む必要があったりで我々の方も治療に大変気を使ってきました。

現在も抗コリン剤は第一選択薬として推奨されていますが、最近これらの副作用を取り除いた薬が開発されています。昨年から、ベータ3刺激剤という薬が発売され、現在我々泌尿器科医もよく処方しています。今までは、排尿筋の異常な収縮を行うアセチルコリンレセプターという受容体をブロックすることに重点が置かれ、様々な抗コリン剤が開発されてきましたが、このベータ3刺激剤は膀胱の筋肉を弛緩させる受容体(ベータ3受容体)に結合してこの受容体を刺激して膀胱の筋肉を弛緩させるという働きをしています。面白いのは、もともと膀胱に対して開発されたものではなくやせ薬として開発されたという点です。(もちろんこの薬を内服したからと言って痩せません。誤解のないように。) 作用機序が全く違うので口渇や便秘が起こらないので患者さんには喜ばれています。また、抗コリン剤でも内服するのではなく湿布薬のように皮膚に張るタイプの経皮吸収薬も開発されてきました。経口で薬を摂取するとまず腸で吸収され肝臓を通るのでここで多くの薬が代謝されてしまい、有効成分を残すためには高い濃度が必要になります。そのため高用量の薬が必要となり副作用も出やすいのですが、経皮吸収にすると肝臓を通らないので低い用量で済み、副作用が起こりにくいことを利用して開発されました。これは皆さんがよくご存知の湿布薬を売る会社が既存の抗コリン剤を使って開発し、最近発売されたのですがその効果を今注目しています。

日本の“ものつくりの力”がすごいのは“はやぶさ”や“まいど1号”などの人工衛星、H2ロケットの宇宙開発の技術のニュースやハイブリッドカー、電気自動車など自動車産業の繁栄ぶりを見てもわかりますが、前者のベータ3刺激剤も世界に先駆けて日本で初めて開発された日本の会社の薬ですし、昔からあった湿布薬の技術を使って経皮吸収薬を開発したのも日本の製薬会社です。TPP解禁を狙って外資の会社が日本の製薬市場を虎視眈々と狙っているようですが、日本の国も国の政策としては仕方がないとしても、後発品を作る会社ばかりに重点を置かず、このような独自の薬を開発する会社もぜひ応援してあげてほしいと思います。