第53回 増え続ける梅毒

 

皆さんは、梅毒はもう昔の病気だと思っておられないでしょうか?コロンブスがアメリカ大陸からヨーロッパに持ち込み(諸説あります)、洋の東西を問わず大流行した梅毒はヨーロッパでは音楽家のシューベルト、思想家のニーチェなどが罹患し苦しんだと言われています。また、日本では戦国大名の加藤清正や結城秀康などが梅毒のため亡くなったと記録されています。

治療法のなかった梅毒もペニシリンが発見され、不治の病ではなくなり、その感染者数も減少の一途でした。ところが、日本では2011年頃から再び増加が始まり、2023年には約1.5万人の新規感染者

が報告されています。

 

厚生労働省ホームページより

 

 

特に若者の感染者数の増加が著しく、女性の感染者の割合も増えています。梅毒は、血液を介する感染、または粘膜の直接接触による感染が主で、特に性行為が感染原因として最も考えられています。

梅毒は、偽装の達人と言われるほど全身の至る所で様々な症状を示しますが、典型的な症状として感染後13か月の1期では梅毒が潜入した経路(外陰部、口唇、口腔内)に痛みを伴わない硬結を生じその後、その部位に近いリンパ節にこれも痛みを伴わない腫れを起こします。いずれもしばらくすると良くなるので安心してしまうのですが、その後血行性に全身に広がり感染後3か月から3年の2期になると全身のリンパ節が腫れたり、全身に赤色の発疹が出たり、赤茶色の湿疹が出たりします。これも大体12か月で自然に消失しますが、治ったわけでなく更に病気は進行します。その後は、症状のない潜伏梅毒となりますが、内臓では病気は徐々に悪化していきます。最後に晩期と言われる感染後3年以降では筋肉、骨、臓器にゴムのような腫瘤が形成され、大動脈瘤や心臓の弁膜症をはじめとする心血管梅毒や中枢神経障害を起こす神経梅毒を発症し、最後には死に至ります。さすがに医療が良くなった現代では晩期梅毒を見ることはほぼありませんが、若年者の感染が原因で赤ちゃんに感染が及ぶ先天性梅毒が最近増えてきました。胎盤を経由して赤ちゃんに梅毒が感染すると生後数か月で全身の発疹や肝臓や脾臓の腫れ、難聴、角膜障害や歯の障害などが認められるようになります。

検査は、血液検査で感染は判明しますが、感染後34週間以内は陰性になることが多く、感染を疑う場合は感染のチャンスから1か月程度待ってから検査をする方が良いとされています。

治療は、ペニシリンを4週間内服することでほぼ治癒しますが、梅毒の抗体価の低下を確認することが必要です。一度感染したからといって免疫ができるわけではなく、何度も感染しますので注意してください。最近は、注射剤も発売され、治療の選択肢は増えましたが、一方で、不特定多数の異性、同性との性行為の増加や性風俗の乱立などが感染を広げています。家庭やパートナーを守り、感染を広げないためにも自覚のある行動が求められます。もし、感染に不安があれば、HIV感染も含めた検査を保健所等で無料かつ匿名で受けることができますのでご考慮ください。